門(20)
二十
二度目に眼が
「御早う」と
「今朝もつい寝忘れて失礼しました」
彼はこそこそ勝手口から
紹介状を貰うときに東京で聞いたところによると、この宜道という坊さんは、大変
この
この庵を預かるようになってから、もう二年になるが、まだ本式に床を延べて、楽に足を延ばして寝た事はないと云った。冬でも着物のまま壁に
「ようやくこの頃になって少し楽になりました。しかしまだ先がございます。修業は実際苦しいものです。そう容易にできるものなら、いくら私共が馬鹿だって、こうして十年も二十年も苦しむ訳がございません」
宗助はただ
「けっして損になる
宗助は義理にもまた自分の
こんな時に宜道が来て、
「野中さん
提唱のある場所は、やはり一窓庵から一町も
は朱で塗ってあった。
やがて老師が現われた。畳を見つめていた宗助には、彼がどこを通って、どこからここへ出たかさっぱり分らなかった。ただ彼の落ちつき払って曲に
この時堂上の僧は
「我に三等の弟子あり。いわゆる猛烈にして
やがて提唱が始まった。宜道は
「ありがたい結構な本です」と宗助に教えてくれた。
中途から顔を出した宗助には、よくも
「この頃室中に来って、どうも
一時間の後宜道と宗助は
「ああして提唱のある時に、よく参禅者の不心得を
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底本:「夏目漱石全集6」ちくま文庫、筑摩書房
1988(昭和63)年3月29日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版夏目漱石全集」筑摩書房
1971(昭和46)年4月~1972(昭和47)年1月
入力:柴田卓治
校正:高橋知仁
1999年4月22日公開
2004年2月28日修正
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