吾輩は猫である(3)
三
三毛子は死ぬ。黒は相手にならず、いささか
今日は上天気の日曜なので、主人はのそのそ書斎から出て来て、吾輩のとは、主人にしては少し
を書き放しにして、新たに
鼻毛で妻君を追払った主人は、まずこれで安心と云わぬばかりに鼻毛を抜いては原稿をかこうともあまり
「また巨人引力かね」と立ったまま主人に聞く。「そう、いつでも巨人引力ばかり書いてはおらんさ。天然居士の墓銘を
計らずも迷亭先生の接待掛りを命ぜられて
「どうも御退屈様、もう帰りましょう」と茶を
「君まだいるのか」と主人はいつの
それから約七分くらいすると注文通り寒月君が来る。今日は晩に
「罪人を
この絞殺を今から想像して見ますと、これを執行するに二つの方法があります。第一は、リーシャスの
「まず女が同距離に釣られると仮定します。また一番地面に近い二人の女の首と首を
迷亭と主人は顔を見合せて「大抵分った」と云う。但しこの大抵と云う度合は
「それから英国へ移って論じますと、ベオウルフの中にツ・ゼラルドと云う悪漢を絞めた事がありました。ところが妙なはずみで一度目には台から飛び降りるときに縄が切れてしまったのです。またやり直すと今度は縄が長過ぎて足が地面へ着いたのでやはり死ねなかったのです。とうとう三返目に見物人が手伝って
演説の続きは、まだなかなか長くあって寒月君は首縊りの生理作用にまで論及するはずでいたが、迷亭が無暗に
主人のうちへ女客は
「ちと伺いたい事があって、参ったんですが」と鼻子は再び話の口を切る。「はあ」と主人が極めて冷淡に受ける。これではならぬと鼻子は、「実は私はつい御近所で――あの向う横丁の
「金田って人を知ってるか」と主人は
主人は無論、さすがの迷亭もこの
鼻子はようやく
主人は不満な
主人は伯父さんと云う言葉を聞いて急に思い出したように「君に伯父があると云う事は、今日始めて聞いた。今までついに
吾輩は今まで向う横丁へ足を踏み込んだ事はない。
しかし一度思い立った事を中途でやめるのは、
向う横町へ来て見ると、聞いた通りの西洋館が
猫の足はあれども無きがごとし、どこを歩いても不器用な音のした試しがない。空を踏むがごとく、雲を行くがごとく、水中に
来て見ると女が
帰って見ると、奇麗な
「寒月君、君の事を
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底本:「夏目漱石全集1」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年9月29日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版夏目漱石全集」筑摩書房
1971(昭和46)年4月~1972(昭和47)年1月
入力:柴田卓治
校正:渡部峰子(一)、おのしげひこ(二、五)、田尻幹二(三)、高橋真也(四、七、八、十、十一)、しず(六)、瀬戸さえ子(九)
1999年9月17日公開
2004年2月5日修正
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